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2015年6月17日 (水)

名古屋城天守閣の「早期の木造復元」は、こんなに問題がある

名古屋市は、本日の市議会経済水道委員会で、「名古屋城整備検討調査報告書」(以下「報告書」)を踏まえて、名古屋城の天守閣について、「可能な限り早期の木造復元を目指す」という方向性を示します。しかし、早期の木造復元には、以下のような大きな問題があります。

 

その一、木造復元の意義が不明確――市が示している理屈は、現在の天守閣は寿命が40年、再建を行う場合は木造復元に限られるので、どっちみち木造で復元するなら、現天守閣の耐震改修と大規模改修の費用が不要になる分、早期に木造復元した方が得だ、という単純なものだ。そもそも木造で復元することが、特別史跡名古屋城跡の保存・活用にとってどういう意義があるのかという、一番大事な論点が欠落している。

 

その二、城は天守閣だけではない。名古屋城跡全体の整備計画との整合性が不明確――市が策定した「名古屋城跡全体整備計画」では、名勝二之丸庭園の保存整備が重点的整備事項にあがっているが、本丸御殿に続いて天守閣の復元に巨額の費用を投入することになれば、城跡内の他のこうした整備に支障が出るのではないのか。本丸に天守閣と御殿がそろった後は、多聞櫓や東北隅櫓を整備した方が、本丸のランドマーク性が高まる、と私は考える。

 

その三、現天守閣は40年しか寿命がないのか。長寿命化を図れないのか――現天守閣は築後56年経ち、あと40年の寿命ということは、約100年しかもたないということになる。ところが、1931年に再建された鉄筋コンクリートの大阪城は、84年経ったいまも健在で、再建の予定はない。大阪城は1995~97年にかけて「平成の大改修」が行われている(工事費約70億円)。名古屋城も耐震改修と合わせて大改修を行えば、長寿命化を図れるのではないのか。

 

その四、河村市長のいう〝本物〟復元は無理――「報告書」では、「木造による史実に完全に忠実な復元計画は困難」であるとして、天守閣の1階より下部は鉄筋コンクリート造りとされている。天守閣内へのエレベーターの設置も検討されている。名古屋城天守の柱には主に木曽ヒノキが使われ、しかも「無節」の極上材だったが、「報告書」では「節付き」国産材にランクが下がっている。〝本物〟復元が検討から除外されていることを、河村市長は了承したのだろうか。

 

その五、「天守再建は木造復元しかない」のか――その根拠を示す文化庁の通知など文字になっているものはない。

 

その六、現天守閣の博物館機能が失われるが、代替案がない――現天守閣内の展示スペースは、博物館相当施設の指定を受けているが、木造復元では天守閣内に展示スペースを設けることができない。美術工芸資料の新たな展示・収蔵場所の確保が必要になるが、その方策は示されていない。現在は展示スペースが「名古屋城の入場者の8割が入る天守閣」(市当局)の中にあるから、多くの入場者に見てもらえるが、天守閣内からの移設は、博物館機能の低下をもたらすだろう。 

その七、木造復元に市民は冷ややか。盛り上がっているのは河村市長と減税日本だけ――名古屋市が実施したネットアンケートでは、「天守閣を存続させて、耐震補強や改修などを行う」が71%。「天守閣を解体して、木造で復元する」は15.3%しかなかった。 

その八、最大の問題は、市民の暮らしが大変なときに、天守閣に巨費を投じるのは無駄使い。他にやることがある――「節付き」国産材を使っても、木造復元には約322億円もかかる(「報告書」)。報告書では、将来、税収が減るかのように述べているが、いま、「大企業・大金持ち減税」で名古屋市の税収を減らしているのが河村市長ではないか。「減税」で市民サービスの低下が懸念されているときに、天守閣に巨額の費用をつぎ込んだら、市民の暮らしが壊される。

 

結論。「早期の木造復元」は受け入れられない。現在の天守閣の耐震化と長寿命化を図り、木造で復元するかどうかは、将来の市民と市長に委ねるべきだ。

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